スノウ・ファントム
ルカはどうやら、自分がどういう存在であるのかも、包み隠さず葉村くんに話したようだ。
それなら、葉村くんがそんな疑問を抱くのも当たり前のこと。
「私も……そうなったとき、自分がどうなるのか、まだ想像ができないの。もしかしたら、無意識に考えないようにしてるのかもしれない。だけど」
私はそこで言葉を切り、つり革をつかんでいない方の手を胸元でぎゅっと握る。
たとえ、ルカに会えなくなったとしても……きっとここにある気持ちは、消えてなくなったりしない。
一緒に過ごした記憶も。
交わしたキスの感触も。
“キナコ”――そう呼んでくれるときの無邪気な笑顔も、全部全部。
「きっと、悲しいし寂しいと思うけど……だからって、ルカへの気持ちを捨てたりしたくはない。できることならずっと……ルカを好きでいたい」
葉村くんの瞳をまっすぐに見つめて、私は素直な気持ちを話した。
一瞬間があって、それからぎこちなく笑った葉村くんは、ぼそりと呟く。
「じゃあ……さっき、どうして僕を助けたの」
「さっき……? 駅でのこと……?」
黙って頷く彼は、瞳に切なげな色を浮かべている。
どうして助けたのかって……自分でも、咄嗟に声を掛けていたとしか言えない。
それより、こっちこそ聞きたい。どうしてあんなに危ないことをしていたのか。
その危険とは裏腹に、あんなに落ち着いた様子だったのか。