スノウ・ファントム
「葉村くん……わざと危ないことをしたわけじゃないよね?」
もし、そうでなかったらどうしよう。
彼にそんな行動をとらせてしまうほど、私やクラスのみんなのしたことが心の傷になっていたのだろうか。
いじめを苦に自殺する中学生や高校生のことはニュースで何度か見たことはあるけれど、自分の周囲と結びつけて考えたことはなかった。
可哀想だと思いながらどこか他人事で……そこまで追い詰められている人なんて、それこそニュースになるようなほんのひと握りなんだろうって、軽く考えていた。
でも、今自分の隣にいる葉村くんが、その“ひと握り”なんだとしたら……。
「さあ……どうだろうね」
はぐらかすようにさらっと流した彼は、私の隣を離れて扉の方へ移動する。
ガタンと電車が揺れて駅に着くと、そのままこちらを振り向くことなく、開いた扉からさっさと出て行ってしまった。
(否定、しなかった……)
ぎゅ、と胸が締め付けられて、私は今までの自分を後悔せずにはいられなかった。
葉村くんを助けたい。そう思っているだけの自分を、実際に彼をいじめる首謀者たちと同罪だとわかっていながら、けれどどこか違うような気がしていた。
“心の中では、悪いと思っている”
それを免罪符のようにして、何も行動を起こせない自分のこと、正当化していたんだ。
葉村くん自身も、私が心配しているのには気づいていたようだけど……そんな精神だけに限ったことでは、少しも彼の救いにはなっていなかったということだ。