花舞う街のリトル・クラウン
待っていろ、と言われたけれど。

何をして待っていればいいんだとリルは少し頭を抱えた。

リルはオリバーのようにここに知り合いがいるわけではない。ただぼうっとオリバーの帰りを待つだけだ。それもそれで暇だなあと思っていると、服の裾を引っ張られた。


「え?」


そちらの方に顔を向けると、それと同時に腕を引っ張られて人目につかない場所に引きずり込まれた。


「え、ちょ、ちょっと!」


人の多い広間から人通りの少ない廊下へ来るとようやくその手が開放された。

リルが「何なんですか?」と問おうとしたところで、その唇に人差し指が当てられた。


「ごめんね、こんな場所に連れ込んじゃって」


その人物は茶目っ気たっぷりに笑った。微笑みが可愛らしい青年だ。

可愛らしいのにどこか漂う上品さは、きっとどこかの貴族なのだろうとリルは思った。

どこかで見たことがあるような彼の面影に戸惑いながらも、リルは眉間にしわを増やしていた。


「君だよね、花屋フルリエルの新入りバイトさん」


突然自分のことを言い当てられたリルは驚きながらも、「ご存じなのですか」と彼に問うた。


「そりゃあね」と彼はにっこり笑った。


「あのフルリエルに雇われる人がいるなんて、前代未聞さ。どんなに優れた人物だろうかと注目の的ってわけだよ」


「知らなかったかい?」なんて言う。

リルは眉間のしわを深くした。

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