花舞う街のリトル・クラウン
「お前に聞こうと思っていた。なぜお前が王都に来たのか」

シオンに尋ねられて、自分がまだ説明していなかったことにリルは気づいた。


「探している人がいるの。どこにいるのか、分からないけれど」


リルは自分の人生にあまり華やかなものを想像できなかった。

王国の片田舎、辺境のアルトワールに暮らしていたリルには、王都の華やかさも自分にはどこか程遠いものにしか感じられなかったのだ。

きっと自分は家業である花農家になり、どこかの誰かと結婚をして、子育てをして、そうやって何事もなく人生が終わっていくのだと思っていた。

ならば、その前にひとつだけ約束を果たそうと思ったのだ。


一度きりの人生を、平凡な人生を、赤く色づけるような冒険を。


けれどその冒険は、リルにとって一生忘れられないものになった。


シオンと出会ったからだ。


最初は冷たくてぶっきらぼうな人だと思っていたけれど、一緒に過ごすうちに分かってしまった。

本当は優しくてあったかいことを。

気づいたら惹かれていた。


リルが王都に来たのは、幼い頃に約束したあの男の子に出会うためだ。

けれどもし会えなかったとしても、リルはこの旅を一生後悔しないだろうと思っていた。


シオンという好きなひとに出会えたことが、この旅の何よりの成果だ。


「会えたのか?」

「いや、まだ」


「そうか」とシオンは目を伏せた。
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