花舞う街のリトル・クラウン
「アルトワールには、俺も行ったことがある。幼い頃にだがな」


シオンの言葉に目を丸くしたのはリルだった。


「え?」


懐かしむような優しい顔をするシオンから目が離せない。

何を言うのかと固唾を飲んで見守るリルを見たシオンは、フッと鼻で笑った。


「何も驚くことはないだろう。アルトワールは片田舎の僻地にあるが、この国にとっては大切な場所だ」


この国有数の花の産地であるアルトワールでは、その地でしか栽培できない花もいくつもある。

そのためアルトワールには王族や役人など国の重役が何人も何度も訪れていた。


「先代と共に訪れた時、そこの祭に参加したことがあったな。

その時、アルトワールの村の娘と一緒に遊んでいて、ペンダントを贈った」


「え、ペンダント…?」


リルは無意識に服の下にあるペンダントを握りしめた。



「ああ。小さなガラスの瓶の中に黄色い花が入っているペンダントだ。

それから約束をした」


それからシオンはその約束の言葉を口にした。





「いつか必ずまたあおう」





それはリルが一度も忘れたことのなかった言葉。

リルは目を見開いた。




「約束をしたのはもう何年も昔のことだ。相手も忘れているだろう。もう二度と会えないかもしれない。

それでも俺は忘れない。

あの娘を、約束を、絶対に忘れない」



言葉が出なかった。


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