花舞う街のリトル・クラウン
ずっと思い続けていた。

アルトワールの田舎で暮らすリルには想像もできない、別世界のような大都会で暮らしているという彼の笑顔が大好きだった。


けれど長い年月のせいで、幼い頃に何を話したなんて忘れてしまった。


だからいつか会えたら色んなことを話したかった。


何を見て、聞いて、感じて、生きてきたのか。

その目に映るものを、聞こえる音を、感じる風を、自分も体感してみたかった。



知りたかった、彼のことを。



きっと、気づかないうちに好きになっていたんだとリルは思った。


だからずっと探してた。

だからずっと思い続けていた。



その人が今、目の前にいる。



「こんな昔話、お前に話しても仕方がないのにな」


シオンは自分を嘲るように「すまない」と笑う。

それを否定したいのに、リルの目には涙がいくつも溢れて視界が滲んでいく。


『私はずっとシオンを探していたんだよ』


なんて、口に出しそうになって慌てて口を噤んだ。

今何か話してしまったら、きっと声に出して泣いてしまうような気がした。


「どうかしたか?」

リルの様子を不安に思ったらしいシオンは問いかける。

決して自分が泣いていることなど悟らせたくないリルは、ひとつ呼吸をおくと「何もないよ」と笑った。


「少し、目に塵が入ってしまったくらい」


「そうか」


シオンはあっさり納得したのか、「もう帰ろうか」と提案した。


「風と雲が出てきた。これ以上は寒くなる一方だ」

< 143 / 204 >

この作品をシェア

pagetop