花舞う街のリトル・クラウン
花の名前と言われて、リルの頭には、堀に咲くあのエトメリアが思い浮かんでいた。

王城の中ではなく、その傍で静かに咲く花。

まるで自分とシオンの距離のようだ、とリルは思って胸を痛める。

どれほど頑張って咲き誇ろうとも、決して堀の内側には立ち入れない。

傍にはいられないのだ、と。


「リル、貴女ならどう思う?」


優しくて美しくて、だけどどこか冷たいトゲのある、そんな声でクレーラはリルの名前を呼ぶ。

その声でリルははっとしてクレーラに顔を向ける。

クレーラはその白く細い指で赤い花の輪郭を優しくなぞる。


「見合い相手に贈る花が真っ赤なルミナリアなんて、ひどくありきたりだと思わなくて?」



リルは目を見開いた。


まるで温度が下がったみたいに鋭い目をしたクレーラが、ルミナリアの花びらをちぎって放り投げたのだ。

先ほどまで優しい目で、優しい指先で花を慈しんでいたはずなのに、今はその花が床に散らばっている。



「貴族の女性(レディ)にルミナリアを贈る人なんて、どこにでもいるわ。つまらないったらない」



ぐしゃり、とヒールで踏みつけられたルミナリアは痛々しくてリルは胸が痛む。

思わず止めようとするけど、すぐにクレーラに睨まれる。


「貴女、たかが平民の分際でこのわたくしに文句を言うつもり? この花はわたくしに贈られたのよ、わたくしがどうしようが貴女には関係ないでしょう?」


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