花舞う街のリトル・クラウン
確かに、その通りだ。

リルの仕事は花を届けること。

そしてその仕事は完了したのだ。

それ以降のことはリルには関係ない。


「なあに、その目は。何か言いたいことがあるの?」


クレーラはなおもリルを睨む。

リルは言いたいことを全てが心に押し込んで口をつぐんだ。

この国の民はみな花が好きだとリルは思っていた。例に漏れずリルもそうだ。

だからこそ、こんなにも花を傷付ける人がいるのだと初めて知り悲しかったのだ。

花を傷付けないで、とリルは叫びたかった。本当はそうしてしまいたかった。

けど叫んでしまえば、クレーラは間違いなく激怒する。そうなれば、オリバーに、フルリエルに迷惑をかけてしまうだろう。それは避けたいことだった。


「いえ、何も」


心を押し殺したリルの言葉に満足したらしいクレーラは「そうよね」と嬉々として花を踏みつける。

ちぎれていくルミナリアはまるで血のようだとリルは思った。


「そうよね、そうよねえ…!全てわたくしの思った通りでなくてはねえ!そうなるようにこの国はできているのよねえ!」


嬉しそうな顔から憎しみへと、言葉も表情も変化していくクレーラに、リルは恐怖で身を固まらせる。


「本当に、本当に!なんてつまらないの!縁談を申し込んできたというのにシャルトル子爵は腰抜けで腑抜けで!絶対にこのボスト家の財力に目を付けたんだわ!父上に言われたから仕方なくお会いしただけだけれど、あんな人と婚約なんてまっぴらごめんよ!」


クレーラにとってシャルトル子爵との縁談は望んだものではなかったらしかった。

というのも、クレーラには思い人がいるからだ。

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