花舞う街のリトル・クラウン
「わたくしの心にはあの方だけのものなのに…」


細められた目が切なく思える。

アルトワールの片田舎で生まれ育ったリルは貴族の生活を知らない。

ただお金を持っていて贅沢な暮らしをしていて、何不自由ない生活をしているのだろうと思っていた。

だからこそクレーラがこんなに切ない表情をしていることに驚いたのだ。


お金を持っていようが持っていまいが、同じ悩みを抱えるのだと。


リルは服の内側に仕舞っていたペンダントを取り出して握りしめた。

肌身離さず身に着けているペンダントは、仕事の時には傷つかないように服の内側に仕舞っていた。けれど今は、なんだかそれを直に握りしめたかった。

切なさに心が痛んだ。


「ねえ、リル。わたくしが何の花がいちばん好きか分かる?」


「え?」


しばらくして落ち着いたらしいクレーラは着れた息を整えながらリルに尋ねた。

難題に首を傾げるリルに、クレーラは言った。


「シオンよ」


リルは目を見開いた。

シオンの花は、中心にある黄色い柱頭の周りを薄紫の細長い花びらがぐるりと一重に並んだ、小指の長さほどの花だ。

繊細で優美さを兼ね備えた美しい花ではあるものの、ハイビスカスやルミナリアのように目を引くような華やかさはない。

派手なものが好きそうに思えるクレーラが好む花としては些か地味にも思えた。
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