花舞う街のリトル・クラウン
クレーラの心が不安定になっている理由はシオンにあった。

先日クレーラはシオンとの縁談を申し込んだのだが、シオンに断られたのだ。その上、直談判をするべく王城へ足を運んだところ、「クレーラと婚約するつもりはない」と断れてしまったのだ。

そのことが深くクレーラの心を曇らせているのだった。


「想い人がいるのだとシオン様は仰られた。

幼い時に出会った、自分と同い年くらいの少女のことを今まで何度も大切そうに語っていらっしゃったの。だから思い人がその人だととすぐに分かったわ」


「それでも、わたくしはとても認められない」とクレーラは宣言するように言い放つ。


「わたくしが何度お会いしても、何度美しい姿を見せても、それでもシオン様の心にはその人しか映らない。

ねえ、それがどれだけ辛いか貴女には分かるかしら？」


どれだけ自分が頑張っても、好きなひとは自分を見てくれることはない。

突き付けられた絶望に、それでもクレーラは立ち向かってきた。

それでも気高く生きてきたのだと、その目にうっすらと滲んだ涙が語っている。


絶望に立ち向かうにはどれほどの決意が必要だっただろう。

きっと今のリルよりもクレーラの方がずっと強い女性だとリルは思った。

自分の胸に手を当てて、クレーラと自分を比べていた時だった。


「貴女、それ！」


憎しみの瞳をしていあたクレーラの目が怒りに変わった。

そして言葉を言い放つと同時に、リルの胸元のペンダントを引っ張る。
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