花舞う街のリトル・クラウン



『ねえ、どこいくの?』

『こっち、こっち』

幼い私の手を、あの人は引っ張って走る。

ただ嬉しそうで、心から楽しそうで、いつも笑顔の人だった。

まっすぐ輝いている瞳が美しい紫色なのを今でも覚えている。


『もう行っちゃうの?』

『うん、王都にかえらなきゃいけない』

『もうあえない?』

俯く私の手を強く握って『そんなことない』と男の子は強く言った。


『会える。ぜったい、会える』


だから約束しようと、言ったのだ。


『また必ず会おう』

『約束だよ』


小指を絡ませて微笑みあって。


『王都で待ってる』






リルは幼い頃の夢を見てしまった。

あの人はあの約束を今でも覚えているだろうか、と寝ぼけた頭でそんなことを思う。

覚えているのは自分だけで、もうとっくに忘れてしまっただろうか、と不安になった。

もしあの人と出会えたとして、もう自分のことを忘れてしまっていても責められないなとリルは思った。

12年だ。

そんなに長い間、覚えていられる方がおかしい。

それでも、もしかしたら覚えていてくれているのかもしれない。

そんな希望がほんのわずかでもあるのなら、諦めたくない。

そうだ、頑張れ、頑張るんだ、と自分を鼓舞して起き上がろうとしたところでリルは異変に気付いた。


手足が縛られていて、動かせない。

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