花舞う街のリトル・クラウン
「実はのう…」


そう前置きをしてオリバーは話しはじめた。

何を話していたのか、眠りに落ちたリルには知る由がなかった。


次の日の朝リルが目を覚ますと、天井に設けられた曇りガラスから眩しい光が降り注いだ。

音のない静かな開店前の店の中はまだ少し薄暗い。

大きく伸びをして、いつも胸元にあった重さがないことに気付いたリルは昨日のことを思い出した。

クレーラによって奪われて、投げ捨てられたペンダント。

雨が降る中、やっとの思いで見つけはしたけれど、それはもう壊れてしまっていた。

ペンダントは、リルの恋心そのものだった。

シオンへの気持ちが例え叶わないものだとしても、例え告げることができないものだとしても、それでもこの気持ちをずっと大切にして生きていこうとリルは思っていた。

シオンが自分の探していた人だと分かって、手の届かない人だとも分かって、混乱する気持ちが落ち着いてきた頃に導き出したリルなりの答えだった。

そうやって気持ちの折り合いをつけようと思っていた時にペンダントは壊れたのだ。

まるでリルの気持ちを嘲笑うように壊されたのだ。

リルが心の中でシオンを想うことすらも許されないと言われているみたいに。

痛む胸を押さえながらテーブルの上を見るけれど、昨日まで確かにそこにあったはずのペンダントはどこにもない。

リルの心臓はどくり跳ねて、目を見開く。

信じたくない気持ちでいっぱいだった。

心の支えだったペンダントがない。壊れているどころか、どこにもないなんて。

リルはすぐにソファから降りて、テーブルの周りを隅々まで見て回る。

けれど一向に見つからない。
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