花舞う街のリトル・クラウン
「ペンダントもすごく大事にされてきているしね」とメアはリルの手のひらの上のペンダントを優しい目で見つめる。


「そのペンダント、リルが身につけてからもう10年近く経とうとしているのに、劣化があまり見られなかった。ガラス玉のなかの花も損傷が少ないわ。よほど大切にされてきたんだと一目で分かった」


そこまで言うとメアはハッとして、照れ隠しのように早口で話した。


「そんなペンダントが壊れたなんて聞いたら、職人としても直さなきゃ気持ちが収まらないのよ!それにアルトワールで作られたペンダントなんてデザインも加工も特別だから貴重だし、アルトワールのペンダントしかも10年近くも前のものなんて滅多にお目にかかれるものじゃないし!」


焦ったように捲し立てるメアの手を握って「ありがとう」とリルは頭を下げる。


「まさか、こんなに綺麗に直るなんて思わなかった…」


リルの目には涙が滲んでいた。

あの壊れた姿が嘘だったかと思うほどに、メアの修復技術は素晴らしいものだった。壊れる前のものを思い出しても、違和感などどこにもない。

するとメアは「元通りというわけではないわ」とそっぽを向いた。


「ガラス玉は壊れてたから新しいものに取り替えたし、中の花も雨に濡れてダメになってるのもあったから新しいものを入れた。それにアルトワールの技法は習得できてないから、完璧に直したわけじゃない」


俯くメアにリルは首を横に振る。


「それでも、嬉しいよ。もう元に戻らないって思ってたから」


もう一度「ありがとう」とお辞儀するリルに、メアは「もういいわよ」と言った。
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