花舞う街のリトル・クラウン
どうしてこの人まで。あんなに優しい人だと思っていたのに。

裏切られるような思いに、リルは胸が痛くなる。


「どうして、馬借のおじさんがここにいるんですか。壊れた馬車の部品を買ってくるって…」

「ああ、あれ信じたのか?嘘さ」

分からなかったのか、と鼻で笑われる。


「最初から壊れてなんかないのさ」

「どうして」

「そいつぁ俺の相棒だからさ」


パンをくれたおじさんはにやりと笑う。

リルはあまりのできごとに何も言えなくなった。

少なくとも悪い人ではないと思っていた人達だったのに。優しい人達だったのに。騙されたリルは眉間にしわを寄せた。


「心配しなくても王都には連れて行くさ」


馬借のおじさんは言う。


「ご主人様ってえのは大概王都に住んでるもんだからなあ」


「いいご主人様がいればいいなあ」とおじさんは意地悪く笑うと馬を走らせた。

急に発車したので体がその衝撃に耐えられず動く。


「解いて、これを解いてよ!」

リルがパンのおじさんに強くそう言うと、おじさんは舌打ちをして近づいた。


「ちったぁ、黙ってろ。他の奴らが起きちまう」

そう言われてあたりを見渡すと、他の乗客も眠っているようだった。同じように手足を縛られ、薬で眠らされているのか、起きる気配がない。

そっちに気をまわしていると突然口元を布で押さえられて後ろで縛られる。

「ん!?」

声も十分に言えなくなり、いよいよ助けも呼べなくなった。


「おとなしくしてろ」


動き出した馬車、動かない手足、叫ぶこともできず、すぐ近くには犯人。

絶体絶命の状況っていうのは、こんなときのことを言うのかもしれない。薄っすら涙が滲んだ。

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