花舞う街のリトル・クラウン
腕が良い分、よほどの実力者でなければ店で働くことを認めないといわれていた花屋フルリエルに新しい従業員が加わったという驚きの知らせは、王都中の皆の知るところとなっていた。

当然役人達もその噂を知っていたのだが、しかしそれが目の前にいるリルだとは少しも思っていなかったのだ。

噂の従業員として今まで何度も居心地の悪さを感じていたリルだが、この時ばかりは勇気を振り絞ってこぶしを握った。

胸を張って堂々と、今自分の置かれている状況を言葉にしていく。



「アルトワールより参りました、リル・エトメリアです。

花屋フルリエルでアルバイトをしています。


以後お見知りおきを」



何者だと問われれば、リルが答えられるのは花屋の従業員だということだけだ。それ以外に何もない。

しかしリルの出自を聞いた役人達は驚きを隠せない様子だった。


「あ、アルトワールだと?!」


それもそのはず、アルトワールは国内でも有数の花の産地。そこでしか育てられない花がいくつもある、花の産地の中では最も重要視されている場所なのだ。

しかし、役人達が驚きをかくせない理由は、それだけではない。

国内にいくつか花の産地はあるものの、アルトワールだけは王族にとって特別。

アルトワールは古代遺跡がいくつもあり、かつての王都はその地にあったとされているのだ。幼いシオンと国王がアルトワールを訪れていたのも、そのためである。

王族にとっても、王国にとっても大切な地・アルトワールの出身だということは、高貴な身分であることと大差ないほどに高名なことだ。

そのためリルの経歴を知った役人達は目を丸くして絶句した。

目の前にいるこの娘が、貴族の令嬢と変わらない高貴さを持っている人物であると突き付けられたからだ。
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