花舞う街のリトル・クラウン
シオンの側近であるテオは、シオンとリルの婚約に嫌悪感を持っていないことが伝わってきたのだ。

応援してくれる人達がそばにいるだけで、どうしてこんなに心強いのだろう。包み込まれるようなその温かさにリルは思わず泣いてしまいそうだった。

役人達はここぞとばかりにテオに縋りつくように駆け寄るとこう言った。


「テオどの、シオン様が無謀なことをお考えになっておられるのです、どうかテオどのも説得を…」


「城の役人を務めておられるあなた方なら、シオン様の性格をよくご存知でしょう。

シオン様は一度言い出すと止まらないお方。説得は無意味ですよ」


なんとまあ散々な言われようだ、とリルは思った。

隣にいるシオンをちらりと盗み見ると、非常に不機嫌な顔をしているようだが、その通りなのか口をつぐんでいる。


「リルどのの出自の話は、私も聞いておりました。

しかしシオン様の婚約は、シオン様が決めることでも、役人達が決めることでもありません。

王族の結婚について判断なさるのは国王陛下です」


その言葉に一同押し黙る。

その通りだった。これ以上にないほどの正論だった。


「シオン様、このお話は国王陛下に__」

「最初からそのつもりだ」

テオが言い切るより先に、シオンはぶっきらぼうに言い放つ。


「しかし先に役人達に言わなければ、俺はクレーラと婚約させられるところだったからな」


睨みつけられた役人達は「決してそんなことは」と顔を引きつらせて首を横に振るが、本当は婚約させるつもりだったのだろうことはこの場にいる全員が悟っていた。



「行くぞ、リル」



シオンは踵を返すとリルにそう告げた。

何のことか分からず首を傾げるリルに、シオンは少し苛立ちながら手を引っ張って歩き出した。リルはよろけそうになりながらもシオンの名前を呼ぶ。


「国王に会いに行く」


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