花舞う街のリトル・クラウン


窓の外の景色がどんどん移り変わってゆくのを、リルはずっと見ていた。


国王陛下に謁見してから数日後、リルとシオンは馬車に揺られていた。王族が所有するものだ。

行き先はアルトワール。リルが生まれ育った場所であり、リルとシオンが出会った場所でもある。


「それにしても、こうしてシオンと馬車に乗る日が来るなんてね」

「ああ、思いもしなかったな」


口元を緩ませてシオンが微笑む。

まさかこうしてシオンと二人でアルトワールへ向かう日が来るなど、リルにとっては夢のそのまた夢、現実にはあり得ないと思っていたことだった。


「驚いたことといえば、まさか国王陛下があんなにあっさり認めてくださるとは思わなかったよ」


今でも夢ではないかと思うほどに、リルにとってはありえないことだった。

あの日、あのまま国王陛下に謁見してシオンが婚約の意を伝えると、国王陛下は二つ返事で二人の婚約を認めた。

国王陛下は、王子の認めた娘であれば婚約を認めるつもりだったとおっしゃったが、リルがアルトワール出身であり、国王と旧知の仲であるオリバーが認めた少女であるということも後押しになったのだろうとリルは推測していた。

夢のようだと語るリルの言葉を聞いたシオンは、窓の外に目をやりながら呟いた。



「夢であってほしくないな。こんなに幸せなこと」



その言葉に胸が音を立てる。

しかし自分が言った言葉に気付いたらしいシオンははっと顔をリルに向けて「それよりも、お前!」と突然怒った。


「最初から言えよ、旅の目的を!誰を探してるのか、詳しく!そうしたらもっと早く約束を果たせたというのに!」

「え、私のせいなの?」


リルは自分を指差して、そっぽを向くシオンに呆れていた。

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