花舞う街のリトル・クラウン
「でも、会えた」


会う場所も、時間も、名前さえも知らなかったけど、それでも会えた。それでいいじゃないか、とリルは思った。

シオンも同意見だったようで、口角を上げながら窓の外を見る。

次第に景色に緑が増えて、田舎じみてくる。それを見たリルは、どんどんアルトワールに近づいているのだと嬉しくなった。

日が頂点に上る少し前、もうすぐシャルクラーハに到着することを馬借が告げた。

昼食はシャルクラーハで済ませるのがいいという話になったが、シオンは「お前はここで待っておけ」と言った。


「お前、迷子になるだろ。最初会ったときも迷子になっていたからな」


何も言い返せないリルは大人しく待機することとなった。

しばらくして、シオンは屋台で食べ物やら飲み物やらを購入して戻ってきた。

食べ物を受け取ったリルはお金を払おうとしたのだが、シオンは「いらない」と拒否する。


「大したことじゃない。それにお前、一文無しだろ」


容赦のないシオンの突っ込みにリルは言葉を詰まらせる。


「い、今はフルリエルで働いてるから多少は…」


「いいから、昼食にしよう」


リルは項垂れて飲み物も受け取った。

心地よく揺れる馬車の中で、シオンが買ってきてくれた創作パンを頬張る。

スパイスが効いたそれは辛味が強いのだが、リルが飲み物を飲みながらシオンを見ると、平然と涼しい顔で頬張っていた。

知らなかったシオンの一面が見られたと少し嬉しくなったのは、リルだけの秘密だ。


「疲れていないか?長時間の馬車での移動は慣れていないだろう」


昼食もとり終わった頃、シオンが尋ねる。
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