花舞う街のリトル・クラウン
「どこだ」

「お祭り会場」


それは2人が出会った場所。


アルトワールの森の中を迷うことなくずんずんと進んでいくリルに、シオンは声をかける。


「本当にこっちなのか?」

「近道なの!」

「迷わないだろうな?獣道だぞ」

「平気!」


リルは気が逸っていた。

シオンと共にアルトワールの地にいるのだ。

嬉しくて、嬉しくて、たまらない。


「シオンに見せたい景色がある」


それはこの場所、この時期だけの特別な風景。


「ここだよ」


急に木々がなくなり開けた場所に出ると、そこに現れた景色にシオンは目を見開いた。

広がる一面の赤の美しさに絶句したのだ。


「これは、千日紅(せんにちこう)か…」


赤い小さな丸い花をつける千日紅。それが広場一面に咲き誇っているのだ。

シオンは今までも千日紅を見たことはあったのだが、これほどまでに見事に咲き乱れているのは初めてだった。


「この景色、見たら忘れられない。あの日は、なかったはずだが」


目を見開いて千日紅をその瞳に映したまま呆然と呟くシオンに「そうだよ」とリルは言った。


「お祭りの時期は咲いていないんだ。この時期だけの特別な風景なんだよ」


風がざあっと吹き抜けてゆく、その音しか聞こえない。

誰の声も届かない二人きりの空間が、どこまでも続いている感覚さえする。


この景色を見られて良かった。シオンとして見れて良かった。リルは心からそう思った。


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