花舞う街のリトル・クラウン
探している人と会えることが簡単ではないことをリルはよく理解しているつもりだった。

そして相手が約束を覚えていない可能性があることも承知していた。

どれだけ時間をかけてでも、どんな苦労をしても、たとえ相手が自分を忘れていたとしても、それでも一目だけでも会いたいと思っていた。

だからこそ会えるかもしれないという可能性にかけたのだ。スクールを卒業して十七になった誕生日に覚悟を決めて家を出たのもそのためだった。

父も母も兄妹も、自分の夢を応援してくれた。心配までしてくれた。その思いに応えられなければ、私が今ここにいる資格はない。

そうだ、最初から分かっていたことではないか。リルはもう一度自分を励まして立ち上がった。

そのときお腹が音を立てた。慌てて手で押さえながら、そういえば旅に出てから食事らしい食事をしていなかったことを思い出す。

騎士団の人に夕食をもらったが、それ以来一度も食べ物も飲み物も食べていなかったのだった。

先ほどの天幕街にもう一度出向き、作り立てのおいしそうなパンが売れているのを見かけてリルは店主に声をかけた。

「おじさん、これひとつ」

「はいよ、ひとつ120グランね」

鞄から財布を取り出そうとして、リルははたと異変に気付いた。

まさかと思いながら鞄の中を探すが、財布が見当たらない。


「まさか、あの時!」


リルには思いたる節があった。
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