花舞う街のリトル・クラウン
「ありがとうございます!」

リルは頭を下げると駆け足で店の外に置いてある手押し車へと向かった。

救急箱を見つけて治療しようとするが、片手しか使えないとなるとあまりに難しい。

「あの、良かったら僕がしましょうか?」

苦戦するリルを見かねてか、声を掛けられた。リルが顔をあげるとそこには目を細めて微笑むアーディの姿があった。

「指先の治療だと片手しか使えないから、自分でしようとすると難しいでしょ?」

そう言ってアーディは手際よく治療する。

「はい、できたよ」

あっという間に治療は終わって、きれいに包帯が巻かれている。きっと自分ではこんなにきれいに手際よくできなかったと思うと感謝の気持ちしか出てこない。

「ありがとう、アーディさん」

「いえいえ」

アーディは目を細めるが、思い出したように「どうして僕の名前を?」と首を傾げる。

「リュートさんがあなたの名前を呼んでいるのを聞いてしまって…」

言いにくそにうリルが言うと「ああ、なるほど」と自嘲するように笑う。

「今日こそは失敗しないぞ、頑張ろうって意気込むほど、うまくいかないんだ」

「困っちゃうよ」と頭をかくアーディに、リルは少し考えて「失敗しないぞって思うからじゃないかな?」と言った。

「失敗しないぞって思うと緊張するから、間違えないようにって思うよりは、これをするぞって思う方がいいんじゃないかな?」

するとアーディは「なるほど、そうすれば良かったのか」と納得したような顔をした。

それからリルの手をとって「ありがとう!」と握手する。

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