花舞う街のリトル・クラウン
「ああ?」


不愉快そうにダンは眉をひそめた。けれど次の瞬間、ダンの顔は苦痛に歪む。

リルの肩に回されていたその手首を、シオンが強く掴んだのだ。


「容易くその娘に触るな」


呻き声をあげるダンを余所に言い放ったシオンのその声は怒りに満ちていた。庇われているはずのリルですら心の底の方から凍り付くみたいに、その怒りは冷たい。

リュートもアーディも昔からの馴染みだろうに、その顔は引きつっていた。目を見開いて注意深くシオンを見つめている。それはまるで恐れすら感じているような表情で、今までにこんなにシオンが怒りを露わにしたのは見たことがないらしかった。

シオンがダンの腕を掴み自分から引きはがしてくれたのを機に、リルはその場から離れてアーディのそばにかけよった。


「リル、無事かい?」

「う、うん。何とか。シオンが助けてくれたから…」


2人の視線はシオンに向けられていた。

シオンは冷たい怒りを宿したまま、ダンの手首を砕いてしまいそうなほどに強くつかみ続けていた。その痛みはダンの声からもよく伝わってきた。


「あんなに怒っているシオンは初めて見た」


アーディは呟くように言った。

何がシオンをそこまで怒らせるのか、リルには分からなかった。

シオンはこんなにも短気だっただろうか。そんなに気に障ることがあっただろうか。

たしかにリル自身も、ダンの態度の悪さには怒りを感じたが、それにしてもこれはやりすぎではないか。

呻き声をあげ、助けを乞うダンを見たリルはいても立ってもいられず、シオンのもとにかけよってその裾を掴んだ。


「シオン、もうそれ以上は手首が折れるよ!」

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