花舞う街のリトル・クラウン
シオンはその声で我に返ったようにハッとして手を離した。

シオンから解放されたダンはその場に崩れ落ち、掴まれた手首の痛みに悶える。


「シオン!何やってるのさ、いつもの君らしくもない」


アーディの声に「…ああ」と答えたシオンだが、自分の行動が信じられないと言わんばかりの呆然とした表情を見せて自分の手を見つめる。

その姿を見たリルは何か声を掛けようとしてシオンの名前を呼んだが、その声は店に入ってきたある人物の声に掻き消された。


「何事ですか!」


間髪入れずに店に入ってきたその男性を見てリルは凍り付いた。その男性はあの火事の時にリルを責めた、テオと呼ばれる人物。

テオは痛みに悶えるダンと呆然とするシオンを見つめて目を見開く。すぐに状況を察したようで、シオンを護るようにダンの前に立ちはだかった。

そしてダンを睨みつけながら振り返らずにシオンに言った。


「シオン様、しっかりなさってください!」


その声でシオンはハッと顔をあげた。そしていつもみたいに凛とした表情で、あの日リルを救ったのと同じ瞳でテオの隣に立つ。

その目に揺らぎはなかった。


「ダン・クレール」


名前を呼ばれたダンは未だに痛みに歪む顔を何とか上げてシオンを睨む。


「お前に逮捕状が出ている。よってお前を逮捕する」


凛としたその声と思ってもいなかった言葉に、リル達は目を見開いた。
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