花舞う街のリトル・クラウン
きっとリュートが店に注ぐ情熱が疎ましくて、けれど同時にうらやましかった。だからきっと花言葉に【情熱】を含むフラムルージュをわざわざ選んだのだろう。

それが意図的だったかは分からないし、たまたまかもしれないし、何よりリルの考えすぎかもしれない。

けれど2人の間の関係性はきっと確かなものがある。

それだけは揺るぎない真実だとリルは思っていた。


ダンとテオが店を出た後、訪れた静寂の中でそれを切り裂くようにシオンは言った。


「すまない、騒がせた」

「いや、いい」

リュートはいつも通りを装うようにそう明るく返事をした。けれどそれは誰が見ても苦しみの色が混じっているように感じられるものだった。

「詳しいことはまた話す。仕事があるから、俺はこれで」

「ああ」

「じゃあ」

シオンはそれだけ言うと店を出て行った。


店にはまた沈黙が訪れた。

リルとアーディは顔を見合わせて、この空気をどうしようかと考え込んでいた。

何を言ったらいいのか、言わない方が良いのか、考えても分からないときに、大きな音が店に響いた。

弾かれたように音のなった方を見ると、リュートが自分の頬を力強く叩いているのだった。


「りゅ、リュートさん？」

「ど、どうしたんですか？」


2人とも驚いてそう声をかけると、リュートはいつものように笑って言った。


「気合を入れ直したんだよ。いつまでも暗い顔してちゃいけねえからな！」


その表情には曇りなどどこにもなかった。


< 84 / 204 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop