花舞う街のリトル・クラウン
巫山戯ているようにも聞こえる言葉だが、リルのロゼの瞳は真剣だった。

幼い頃の約束をここまで覚えていられる人は果たしてどれほどいるだろう。こんなにも信じている人がどれほどいるだろう。

幼い頃の約束を忘れずに果たそうとするリルを、メアは心から尊敬した。

そしてリルが取り出したペンダントを見てメアは思った。


「これは、アストロエトメリアかしら?」


リルは頷いた。

リルのペンダントは小さなガラスの球体の中に星のように黄色く小さな花、アストロエトメリアが入っている。

装飾に使われる花はその形と色を保つために特殊な加工が施されている。そのため何年も昔の花でも今も色形は保たれたままなのだ。


「装飾品用に加工された花は普通の花よりずっと脆いわ。それなのにここまで形が残っているなんて珍しいことよ。

すごく大切にされてきたのが手に取るように分かるわ」


リルは脳裏にぼんやり浮かぶあの人を想いながら目を閉じる。


「うん。大切なものだから」


リルと探しているあの人を繋ぐ唯一のもの。約束が交わされていることを示す無二の証。大切な記憶のかけら。ただのペンダントでも、リルにとって何にも代えられないものなのだ。

すると「うおーん!」というまるで犬の遠吠えのような声が聞こえてきた。

リルは慌てて顔を上げると、マドレーヌが声をあげて泣いていたのだ。

リルは思わずぎょっとして「ど、どうしましたか」と声をかける。

するとマドレーヌはリルの腕をがしりと掴んで「どうしたも、こうしたもないわん!」と言った。
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