花舞う街のリトル・クラウン
王都の東側の町並みはお洒落なお店が建ち並んでおり、リルが普段生活している南側とは異なる雰囲気だ。

アーディやメアが言うには、貴族や金もちな商人などの富裕層のお屋敷があるらしい。


「だから宝石店やら装飾品店が多いのよ。ここらに住む人はみな飾りたがるから儲かるの」


メアはばっさり切って捨てるようにそんなことを言う。


「ほんと、ここのあたりに住んでいる人達が羨ましいったらないわ。わたしの地元なんて、こんなお洒落な街からは程遠かったんだもの」


その言葉にリルはメアも他の街からやってきたのだと気づき、「メアの地元はどこなの?」と尋ねる。

するとメアは一つ呼吸を置いて「笑わないでね」と言ってから話し始めた。


「王都よりも南の方にある小さな漁師町、ファティマーレよ」


ファティマーレ、それは国内有数の漁獲量を誇る港がある町だ。


「漁師町、ということは海辺の町なのね!すごい!」


リルの賞賛の声にまたメアは驚いた様子で「すごいかしら?」と首を傾げる。

その言葉にリルは大きく頷いて「私、海に憧れているの」と言った。


「私は山に囲まれた村で育ったから海には憧れていたの」


きっと美しいんだろうなとリルは思いを馳せる。

山育ちのリルにとって海は未知の存在だ。今まで一度も見たことがない。

海は青いという話は聞くけれど、それがどんな青色なのかリルは知らない。


「メアは私の知らない景色を知っているんだね」


するとメアは真正面から褒められて面食らったのか「あ、ありがとう」と照れを隠すように言った。


「海は美しいわ。けれど潮風のせいですぐに金属が錆びてしまうの」


それが嫌なのだと、メアは表情を曇らせた。


「せっかく作った装飾品もすぐにさびてしまうんだもの」


「でも、それでもメアは装飾品が好きでしょう?」


アーディの言葉にメアは黙って頷く。


「誰だって女の子は好きよ。女の子はみんなお姫様なのだから。だからキラキラした装飾品には憧れるし、かわいいドレスは着たいし、おめかしはしたいし、王子様を待ってるの」

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