素敵な夜はあなたと・・・

 茜は納得は出来なかったが、それを受け入れなけばこれまで通りマンションで優也と暮らすことになる。あのマンションから出る為にはその条件を受け入れるしかなかった。


「分かった。」


 会長は秘書へと連絡を入れると直ぐに茜が一人で暮らす為のマンションを準備するように指示を出した。


「茜、今夜はもう遅いから泊って行きなさい。明日になれば新しい住居を準備する。それでいいな?」

「ありがとう! だからお祖父ちゃん大好き!!」

「いつまでも子供で困るな、茜は。」

「だって、お祖父ちゃんの孫だもん!」



 悦びで祖父に抱きついている茜は無邪気そのままだった。

 祖父は日頃から優也に聞かされていた言葉「子どもは天からの授かりもの」というセリフを完全に疑っていた。どうみても、茜と優也は夫婦には見えない。

 無邪気にはしゃぐ茜は子どもそのものだ。少しも大人の女性へと変わっていった様子は見当たらない。それに、本当の意味での夫婦になったのならば簡単に離婚と言う言葉は出てこないだろうと祖父なりに考えていた。



「茜様はもうお休みになられました。」

「急に悪かったな。茜のヤツに何かあったんだろうが、少し調べてくれないか?」

「はい。」

「それから、光一君の引っ越し先も調べておいてくれ。」



 客間に布団を用意し茜を案内したのは会長の世話兼私設秘書でもある櫻井という女性だ。年齢は若くないが祖父より二回り近く離れた中年女性だ。落ち着いた物腰で対応する櫻井を見て祖父は目を細めていた。



「さて、黒木にも困ったものだ。」


 茜は畳の匂いがする部屋でフカフカの布団に身をくるむとぐっすりと眠ってしまった。


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