素敵な夜はあなたと・・・
秘書が帰った後に優也は茜の部屋へと走って行った。すると、茜の部屋はもぬけの殻の状態で何もなかった。机も椅子もテーブルもベッドも家具は一つとして残っていなかった。
クローゼットの扉を開けるとその中の洋服も一つも残っておらずまるで夜逃げでもしたかのようにあっという間に優也の前からいなくなってしまった。
茜の引っ越し先のマンションは優也に告げられることはなかった。茜の希望もあり暫くは一人になりたいからと、誰にも教えて欲しくないと茜が頼んだのだ。
茜が何故こんなことをしたのか見当がつかない優也は戸惑うばかりだった。
優也は何をしても上手くいかず、結局は美佐への求婚も今回も実らなかった。それどころか、別居してしまえば茜と離婚協議もできず、茜が高校を卒業したら元の生活に戻されてしまう。
「俺は何をしているんだ?」
優也は自分の思惑通りに動かないことに苛立ちを覚えていた。
しかし、茜がいない今がチャンスかと優也は更に美佐へのアプローチを考えていた。
「飯でも作るか。茜、夕飯は・・・・何を・・」
優也はリビングに茜がいない事を思い出した。一人だけの食事を取る為に料理を作るのがこんなに億劫だとは思わなかった。
以前一人暮らしの時は当たり前の様に思っていたが、今は作っても誰も喜んで食べてくれるものがいない寂しさをひしひしと感じていた。