素敵な夜はあなたと・・・
茜がマンションを出てから、優也は独身時代と同じような生活を送っていた。
朝は同じ時刻に起床し、朝食を済ませると駐車場に停めている車に一人乗り込んでは会社へと向かう。
車の中は静かなもので、運転中に話しかける者はいない。学校帰りの茜を迎えに行く必要もないし待つこともない。
自分の世話さえしていればよい優也としては、毎日が面倒でなく過ごしやすいはずなのに、どこか寂しく物足りない日々が続く。
仕事を終えると物音一つしない自宅へ帰って来る。
「ただいま」
と、いつもの癖で声をかけてしまう。しかし、森閑とする部屋からは当たり前の事だが全く返事は返ってこない。そこにはもう茜の姿はない。
静まり返ったリビングへ行くといつも座っていたソファーに茜は居なく静かなものだった。
「ちゃんと宿題してるのか? 一人でご飯食べれてるのか?」
茜が一人で暮らしていけているのか心配になった優也だが、茜の居場所も連絡先も分からずに優也は何も出来ずにいた。
「茜、これ好きだったよな・・・」
茜の好きな夕食を作ってしまう優也。そして、つい二人分お皿に取り分けてしまう。茜はもういないのにどうしても優也には信じられなかった。
時おり、茜の姿が恋しくなると茜の部屋だったドアを開け、空っぽになったその部屋を眺めていた。