素敵な夜はあなたと・・・
先にマンションの部屋へと入って行った茜の後を追う様に優也も部屋へと入った。部屋へ入っても茜の家具も洋服も何もない状態だ。空っぽの部屋を見て茜は溜息を吐いていた。
「今夜は俺の部屋で眠れば良い。」
「冗談でしょ? 父親と娘が一緒に眠れるわけないわ。それが出来るのは小学生までよ。覚えておいて。黒木さん。」
茜のイチイチ癇に障る言い方に優也はキレそうになる。しかし、ここは茜を怒らせるわけにはいかず拳を握りグッと我慢していた。
「茜も黒木だろう、そんな言い方するな。これまで通りに優也と呼べ。」
たかだか名前一つでも敏感に反応する優也に茜はクスクス笑っていた。
「何が可笑しい?」
「大変ね、黒木さんも。」
「その言い方は止めろ!!」
「なら、どう言えばいいのよ! 自分の夫が自分の母親に向かって必死になってプロポーズしている姿を見せられてどうすればいいのよ?!! クリスマスをお母さんと一緒に過ごしたのを知ってるのよ。」
優也は茜が誰に聞かされたのか、茜がその事を知っているとは思わなかった。まさか美佐が茜に話のだろうかと思ってしまった。
優也は何とか茜にだけは誤魔化し通すつもりでいた。だから、それは嘘だと言うつもりだった。ところが、茜のセリフに優也は驚愕し顔面は蒼白になってしまった。
「優也さんがお母さんにキスしたの見ていたの。あの時私もあの場にいたのよ。気付かなかったでしょう?」
茜の目から一滴の涙が頬を伝って流れたのを見た優也はショックを受けてしまった。