素敵な夜はあなたと・・・
「ごめんなさい・・・・」
叱られたと思った茜は俯いてしまった。優也の仕事の邪魔にはなりたくないと思っただけだったのに、まさか、そこで怒鳴られるとは思わなかった。
優也もまた声を荒げるつもりはなかった。だが、これは会長命令であり会社の歯車の一つでしかない優也には絶対に断れない仕事だった。
「すまない。だが、これは夫と言うより仕事だと割り切って貰うといい。今は運転手だと思ってくれたらそれでいいから。」
「......はい」
会長命令には逆らえないのは茜も承知している。その茜も祖父には逆らえないからこの結婚を受け入れている。
しばらく車の中に沈黙が走ると居心地が悪くなる茜は窓の外の景色を眺めていた。
これからこんな朝が毎日続くのかと溜め息を吐きたくなる。せっかくの楽しい朝の時間が台無しになると思うとどこか寂しく感じていた。
優也は運転に集中しているのかハンドルを握ったまま真っ直ぐ前方を見ている。運転しているのだから当然なのだけれど、チラリとも横目で茜の様子を見ていない。
そんな優也は本当に優しい人なのか会長命令で優しさを演じているのか分からなくなった。