素敵な夜はあなたと・・・
「お待たせしました」
優也は純白のワンピースに少し驚いたのか目を丸くして俯いたかと思うと頭を数回掻いた。
「じゃあ、行こうか。」
「あ、はい!」
まるで純白のウェディングドレス姿のまま自分の住み慣れた家から嫁いでいく気分だった。そんな茜を見送る家族は母の美佐以外誰もいなかった。
何故、平日のこの日を入籍の日に選んだのか茜はふと考えた。すると、考えずとも答えは直ぐに出た。
今日は茜の誕生日なのだ。十月二十五日の今日、茜は16歳になった。法律上結婚できる年齢になったことが今日入籍した理由だったのだ。
「茜、折角のおめでたい日だからどこかでお祝いをするか?」
優也はこの日を『めでたい日』と言った。だけど茜にとっては少しもめでたい日ではなかった。祖父に結婚を強制されたのが『めでたい』はずがない。
「いいえ、お祝いの必要はありませんから。」
「単なる言葉の綾だよ。気にしないでいいよ。着物を着せられて食べる時間なんてなかったんじゃないのかな?」
「はあ、まあ。」
「だから、お昼ご飯を食べてから帰ろう。」
玄関外に停めていた優也の車の所へと行くと、施錠を解除した優也が助手席のドアを開けてくれた。慣れない扱いに茜は恥ずかしくなり急いで車へと乗り込んだ。