素敵な夜はあなたと・・・
「お父さんは私が生まれたから舞阪の家へ婿養子に来たのよ。その当時はまだ高校生だったらしいから、きっと、会社とか社長とか言われても分からなかったと思うわ。」
「そうだったね。お母さん達は政略結婚でもなんでもなかった。お互いの情熱で結ばれたんだったね。」
「そんな人が会社の経営に携わりたいと思うかって聞かれれば、多分答えはNOだと思うわ。」
昼食へ行こうと誘われたけれど、そんな気分にはなれない様な会話が続いた。結局は政略結婚と同じで自分の意思など無視された強制的な結婚に前向きになれと言われても無理な話だと落ち込む一方だった。
勿論、そんな状態で「美味しい」と笑顔で食事が出来るはずはない。まして、これから向かうマンションでは二人だけの生活が始まる。それも、夫婦としての生活だ。
茜には夫婦がどんな生活をするのか想像もつかなかったが、一つだけ分かっていることがある。それは夜一緒に寝ることだ。
テレビドラマや映画でもそんなシーンは沢山見た。大人向けのドラマでなくても今時中高生向けの漫画でもそんなシーンは多いものだ。
そんな夜が早速今夜から始まるかと思うと気が重くなる。いきなりの結婚にまだ心の準備が出来ていない茜は夜の事を思えば食事など喉が通るはずがない。