クールなCEOと社内政略結婚!?
 私はそれを一気に三分の一くらい飲み干した。息を大きく吐くと、やっとリラックスできた気がする。

 なんだか今日は一日バタバタしたなぁ。

 そんな私の隣に、孝文が座った。広いと思っていたソファだったが、やっぱりふたりで座ると距離が近い。

「なぁ、腹減ったな」

「あ、まぁ。ちょっとね」

 そう言った瞬間、私のお腹がタイミングよくグーと鳴った。

「ちょっとねぇ」

 声を殺して肩を揺らす孝文の腕を叩くと、尚もおかしそうに声をあげて笑った。

 なんだかもう、この人の笑いのツボが謎すぎる。

「飯、食いに行くか?」

「あ、うん」

 しかし、お互い窓の外を見て顔を見合わせた。先ほどよりももっと雨が強くなっていて、ガラスに当たった雨粒がバラバラと音を立てるほどだ。

「こんな天気だし、私なにか作ろうか?」

 私の申し出に、孝文はうなずかない。

「お前、今日誕生日だろう? なのにお前が作るのか?」

「孝文が作ってくれるの?」

 一切料理をしないのを知っていて、わざと聞いた。

「俺が? やってもいいけど、後悔するぞ」

 こんなときまで自信満々って、どういうこと?

「後悔したくないから、やっぱり私が作るよ。でも、ありあわせの材料で作るから文句は言わないでよ」

「あぁ。わかった。そうだ、ワインセラーに美味いワインがあるはずだ。取ってくる」

 孝文が地下に向かったのを見て、私はキッチンに移動して、冷蔵庫の中身を確認した。

 そこには、メインになりそうなものはなかったものの、卵や野菜など一通りは揃っていた。きっと管理人さんが朝食くらいは食べられるようにと、気を利かせてくれたのだろう。
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