クールなCEOと社内政略結婚!?
 私は何か別の話題がないかと思い、佐々木さんのことを思い出して、話してみた。

「孝文……佐々木雅さんは知ってるよね。昨日デザイン部に復帰した」

「あぁ。大学が一緒だからな」

 ワイングラスを傾けながら、何でもないことのように言う。

「ええぇええ? どうしてそれ早く言ってくれないの? 大学時代、雅さんはどんなだったの?」

「なんだよ、急に。さぁな。普通だったよ、普通。お前みたいに、いつも紙切れにデザインばっかり描いてた」

「うそっ! 私みたいに?」

「まぁ、出来は雲泥の差だけどな」

 一言多い。けれど、それも仕方ないことだろう。きっと彼女は学生時代から才能の塊だったに違いない。初めて里見さんがデザインスしたドレスを見たときのことを、今でも鮮明に覚えている。デザインには上品さの中に遊び心が加えられていて、着る年代によって見え方が変わってくるような気がした。しばらく眺めて声もでなかった。同じ道を歩もうとしていた私には衝撃的で、深く胸に刻まれた。

「この俺が舌を巻くぐらいの、デザイン力だった」

「雅さんとは仲がよかったの?」

「あぁ。同じ教授に教えてもらってたからな」

 なんだ知らなかった。

「実は私、アナスタシアの志望動機のひとつが雅さんと一緒に仕事したかったからなんだ。だから今回一緒に仕事ができること、本当に楽しみにしてるんだ」

 ワインのせいだろうか、いつになく熱く語ってしまう。

「新しいプロジェクト立ちあげるって話も出てるから、私も絶対参加したい。昨日だってね、初めて会ったのに、私の床に落ちた資料拾うの手伝ってくれたんだよ。小さなことにまで、気を遣える素敵な人だよね。あ、雅さんって、結婚してる――えっ」

 グイッと腕を引かれて、ソファに倒された。目の前にはこちらを見下ろす孝文の顔があった。私を見つめるその目に、胸が大きく音を立てた。
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