クールなCEOと社内政略結婚!?
「いい加減他人の話ばかりしないで、俺たちの話をしようぜ」

「わ、私たちの話?」

「ああ……そうだ」

 孝文の指が私の頬にかかっていた髪の束を、優しくどけた。わずかに触れられた箇所がくすぐったい。

「そろそろ俺たち夫婦として前に進んでもいいんじゃないのか?」

 その言葉の意味がわからないほど子供じゃない。しかし、それを「そうですね」と受け入れられるほど大人じゃなかった。

「でも、ほら私たちまだ……」

「まだ、何? もう夫婦になって結構経ったと思うけど」

 焦っているのはどうやら私だけみたいで、彼は私の髪を梳き弄んでいる。

「でも……」

「そろそろ、本気の嫁になる覚悟してもらわないと俺も色々困るんだけど」

 それまで私の髪で遊んでいた指先が、私の左の頬に触れた。そし親指がやんわりと唇をなぞる。ゾクリとした感覚が体を駆け抜けたあと、急激に体温があがった。
……ど、どうしよう。どういうつもりなんだろう。もちろん結婚して夫婦になったんだから、こういうことがあるのは当たり前だと思う。

「でも……あの、まだその時じゃないというか、気持ちがついていかないというか……」

 しどろもどろの私とは裏腹に孝文は余裕を顔に浮かべている。

「大丈夫だ。やってればそのうち、その気になる」

 や、やってればって何を!?

 そう突っ込む暇もなく、彼が目を伏せて唇を近づけていた。耐えきれなくなった私はぎゅっと目とつむる。
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