クールなCEOと社内政略結婚!?
 最終面接の会場で行われる質疑応答なんてものは、あたりさわりのないマニュアルに毛の生えた受け答えがほとんどだ。

 あさ美もその中のひとりだった。緊張した面持ちでこちらの顔色を窺いながら言葉を選んでいた。

 しかし俺が聞いた「君にとってデザインって何?」と言う青臭い質問をした瞬間、目を輝かせた。

 それまでとは違い、自分の思いを自分の言葉で嬉しそうに語った。話し終わって我に返り恥ずかしそうにしている表情まで今でも思い出せる。

 あの時の社員が、まさか自分の妻となるなんて思っても見なかった。

 見合い相手が我が社の社員だということもありえないのに、見合いに現れたコイツは、驚くほどうまそうに飯を食って挙句の果てに池にドボンだ。

 もしあさ美と結婚していなくても、きっとあのときの見合い以上に印象に残る見合いはないだろう。

 あのとき直観で感じた「こいつの隣で歩く人生」を、俺は今楽しんでいる。自分の直感を信じてよかった。

 よく変わる表情で落ち着きなく動き回る様は見ていて飽きないし、真剣にデザインを描く横顔には惹きつけられる。

 生い立ちのおかげかしなやかな強さを持っているかと思えば、今日のように子供みたいにお化けや雷におびえたり……。

 いったいいくつの顔を俺に見せるつもりなんだ。

 あさ美の頬にかかった髪をどけてやると、くすぐったそうに肩をすくめた。その無防備さに思わず頬が緩む。
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