クールなCEOと社内政略結婚!?
 初めて訪れる社長室、それもできればあまり人に見られないほうがいい。

 私は役員フロアでエレベーターを降りると、キョロキョロと周囲を警戒しながら社長室を目指した。

 すでに役員フロアの受付は無人で、人影もなかった。ゆっくりと近づいていくと中から灯りが漏れている。どうやらドアがきちんとしまっていないようだ。

 近づいて孝文がいるかどうか確認しようとした。しかし中から声が聞こえてきて、その聞き覚えのある声に嫌な予感がした。

 それでも私はそれを確認しようと、ゆっくりとドアに近づく。

 こんなことしたらいけない。するべきじゃない。頭では分かっていても自分の行動を押さえる事ができない。

 ドアからそっと中を覗きこむと、孝文の背中が見えた。そして彼の影に隠れてひとりの女性がいるのがわかる。

 ――雅さんだ。
 
 さっきまで同じフロアで仕事をしていた人物だ。その服装など間違えるはずもない。
 
 手に嫌な汗がにじむ。まさか相談する前に、雅さんが孝文を訪れているなんて思ってもみなかった。
 
 ここで私が現れると余計にややこしい話になる。そうわかっているのに、ふたりの姿から目を離せない。
 
 そのとき雅さんが一歩、孝文に近づいた。そして次の瞬間――。
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