クールなCEOと社内政略結婚!?
 そう思って急いでバッグの中を漁り、スマホを取り出しディスプレイを確認した。しかしそこに表示された名前は私が思っていた人とは違った。

「……もしもし、俊介」

『どうした、何があった?』

 電話の向こうの心配した声を聞いて、思わず笑いそうになってしまった。

 名前を読んだだけなのに、どうして私が落ち込んでいるって分かったんだろう。

「何にもないよ。ちょっと疲れただけ。俊介、はどうしたの?」

『いや来月またニューヨークだからそれまでに一度会えないかと思って。それよりお前、様子が変だぞ』

「そう? いつもどおり、ただちょっと疲れちゃって……」

 そうだ、私はすごく疲れている。だからこんなふうに、悪い方へと考えてしまうんだ。

『本当に大丈夫なのか?』

「もう、相変わらず心配性なんだから。私、仕事が残ってるから、切るね」

 これ以上通話を続けていると、俊介に泣きついてしまいそうだ。私は電話を切ると深呼吸を何度かしてその場を離れた。

 いくら考えないように、思いつめないようにしようとしてもやっぱり無理で、私は沈んだ気持ちのまま、会社の裏口から外に出た。
< 162 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop