クールなCEOと社内政略結婚!?
 私は大人しく、運ばれてくる料理を口に運びながら、ひとり浮かれている父と、それにビジネスライクに応える社長のやりとりを、聞いていた。

 料理はどれも季節を感じられる食材を使った、上品な味の料理だった。

 こんな状況でなければもっと楽しめたのにな。

 それでも料理には罪はない。私は全部完食する勢いで、料理を口に運んでいた。朝は着付けの時間が迫っていて牛乳しか飲んでなかった。空腹を満たすべく箸を進める私を、向かいの席の社長がチラリと見た。

 本来ならば、お見合いの席でこんな風にパクパクと食事をするのはご法度だ。しかし、今の私は、こうするほうが自分に都合がいい。

 なんといっても、向こうからこの話を断ってもらわないといけないからだ。

「あさ美、そんなにおいしいなら、パパのも食べなさい」

 しかし、私の思惑などまったく気にしない父は、トンチンカンなことを言っている。そもそも外国暮らしが長い父が、そんな日本の常識など知っているはずもない。

「いい。いらないから」

 そっけなく断ると「パパのは嫌なのか?」と涙目で言われて、面倒になった私は父のぶんまで箸を伸ばし、無言で食べ続けた。

「いや、しかし孝文くんアナスタシアはいい会社になったね」

「ありがとうございます。あのとき……宗次さんが助けてくれたおかげです」
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