クールなCEOと社内政略結婚!?
――コンコンッ


 ドアをノックする音で目が覚めた。

「――あさ美、起きてるか?」

 孝文の声が聞こえたが、私はだんまりを決めた。しばらく様子を伺っていたようだが「いってくる」というセリフの後、ドアの向こうの気配は消えた。

「ふぅ」

 なんとなく気配を消すために、気づかぬうちに息を止めていたようだ。私は深く息をすると、仰向けになった。

 天井を見て、この部屋で寝るのは久しぶりだったことを思い出す。本当の夫婦として結ばれた後、私は自分の部屋ではなく孝文のベッドで毎日寝起きしていた。

 寝返りを打てば、すぐそばに孝文の顔があったのに……。温かい体温を感じることができたのに。

 ふたり心も体もふれあうことで、お互いの事を理解した気になっていた。

――決してそんなことはないのに。

 彼の言う“ちゃんとする”は、会社を守ることなのかもしれない。私ひとり我慢すればいい話なのかもしれない。

「でも、そんなことできない」

 天井が涙で歪んで見えた。私の涙はまだまだ枯れそうになかった。
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