クールなCEOと社内政略結婚!?
　それまで、ビジネススマイルを浮かべていた社長の顔が真剣なものに変わる。以前から知り合いだったふたりの関係が気になる。

「いや、私はなお美の好きだったブランドを支援しただけだから」

　父の言うとおり、アナスタシアは母が大好きなブランドだった。とくに自分の着れなかったウエディングドレスを目にするたびに、羨望の眼差しを向けていたのを今でも覚えている。小さい頃そんな母の姿を見ていたことが、私がデザイナーを目指し、アナスタシアへと入社した理由へつながる。

　父と浮田社長は、どうやら仕事での付き合いがあったらしい。それからふたりで、仕事のことについて色々と話をしていた。

　蚊帳の外に置かれた私は、ここぞとばかりに社長の観察をした。私の中では最悪の印象だけど、それでも世間の女性が彼に心を奪われるのがわかる気がする。

　おばあさまがフランス人で彼自身がクウォーターだけあって、日本人離れした彫の深さ、吸い込まれそうなアイスグレーの瞳に、色素の薄いブラウンの髪は否応にも目を引く。それに、ぶつかったときに感じた彼の体は、細身なのにしっかり筋肉がついているような気がした。そういえば社内報でジム通いを欠かさないと書いてあったのを思い出した。

　まじまじと観察していたら、ふと目が合った。不躾にじっと見ていたのが、バレただろうか。

　いや、不躾ぐらいがちょうどいい。今の私がやるべきことは、おもいっきり相手に嫌われることだ。ふと、仕事に支障が出たら困ると、頭をよぎったけれど、そこまで理不尽な扱いはされないだろうと、腹をくくって私は彼に嫌われることに専念した。
< 21 / 239 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop