クールなCEOと社内政略結婚!?
 切り裂かれそうに胸が痛い。

 ふたりやっと本当の夫婦になったと思っていたのに、本当もなにも……夫婦じゃなかったなんて笑っちゃう。

 そんなとき雅さんが言った『あまり彼を信用しすぎないことね』という言葉が脳裏をよぎった。

 この未提出の婚姻届が意味することそれは……。

「探しものは見つかったのか? あさ美」

 突然自分を呼ぶ声が聞こえて振り向くと、ドアに手をかけた孝文の姿があった。

「今日は帰らないんじゃなかったの?」

「俺の質問に答えるんだ」

 孝文の低くこわばった声にびくりとする。けれど色々と聞きたいのは私のほうだ。手に持っていた婚姻届をつきだして、問いただした。

「これ、どういうことなの? どうしてこれがここにあるの?」

 おそらくお義母さんから連絡が言っていたのか、私がここで何をしているか知っていたようだ。婚姻届を突き付けても焦りさえしなかった。

「簡単な話だ。まだ提出してないからだ」

「提出してないって、私たち夫婦じゃないってことだよね?」

「あぁ。“法律上”はそうなる」

 冷静に話しをする孝文のその態度が、私の怒りの炎を煽る。

「どうして、そんな淡々としていられるの?」

「そういうわけじゃない、冷静に話をしたいだけだ」

「冷静に言い訳を並べるわけ? 私を騙していた理由を言うの? それともまだ私を騙し続けるの?」

「そういうつもりじゃないんだ」
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