クールなCEOと社内政略結婚!?
――コンコンッ

 ノックをすると中から男性が現れた。

「早かったな……」

「ん、俊介。遅い時間にごめんねっ……あっ」

 俊介の顔を見た瞬間、目の前がぐにゃりと歪んだ。自分の体を支えきれなくて体が傾く。

「おいっ、大丈夫か?」

 俊介の問いかけに、頷くことしか出来ない。

「ごめんね、迷惑……かけて」

 絞りだすように謝った私は、そのまま意識を失った。



 どのくらい眠っていたのだろうか、うっすらと目をあけると男性の影が眼に入る。

「孝文……?」

 輪郭がはっきりしてきて、その人物が彼でないことはすぐにわかった。

「悪い、アイツじゃなくて」

 困ったような顔で、私を覗き込んでいるのは俊介だった。

 ここに孝文がいるはずないじゃない。

 あんな形でマンションを飛び出してきたんだから……。

 それにもかかわらず無意識に彼を探してしまっている。夫婦でもなんでもないただの他人の彼を。

「ごめん」

「ここ最近、お前は俺に謝ってばかりだな」

「ごめん……あっ」

 またもや謝りそうになった私を見て、俊介は呆れ混じりの表情で見ていた。

「ほら、汗かいてるだろうから、コレ飲んで」

 ベッドで体を起こした私にミネラルウォーターを手渡してくれた。コップの中の水を飲み干すほど、どうやら私は喉が乾いていたらしい。

 すっと俊介の手が伸びてきて、額に当てられた。冷たくてきもちいい。

「熱も下がってきたな。ここに来た時すごい熱だったの、覚えているか?」

 私は首を左右に振った。体調の悪さを感じないほど、心の傷が大きかったのだ。俊介に指摘された今は、体のだるさが襲ってきて私はもう一度ベッドに横になった。
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