クールなCEOと社内政略結婚!?
 カコン――

 鹿威しの音が響く庭園を、私は浮田社長の背中を見ながら歩く。立派な日本庭園では、今の季節きれいなツツジが満開だった。鮮やかなピンク色がこの庭のそこかしこで見られる。

 しかし、私はさっきから彼の背中を見つめて、一言も話をせずにただ歩き続けている。

 父の余計なはからいのせいで、こんなに気まずい時間を過ごすことになるなんて。

 立派な鯉の泳ぐ、大きな池のほとりにさしかかったころ、急に社長が足を止めてこちらを振り向いた。

 明るい日差しを浴びる彼は、まぶしすぎて直視できない。私は目を細めて彼を見た。

「で、感想は?」

「か、感想と言われましても」

「いきなり俺が現れて、驚いた?」

「はい……社長は、ご存じだったんですか?」

「あぁ。自分の見合い相手くらい事前に調査するだろう。普通は」

 そう、普通は写真のひとつも見ているはずだ。何も知らずにのこのこお見合いの席にやってくるのは、私くらいだろう。

「入社五年目、第一デザイン部所属。今年四月にデザイナーへ昇格。デザインの腕は中学生の落書きレベル……ってところか」
 
また〝中学生の落書き〟って言った。

 思わず社長を睨みつける。しかし相手は、面白いものでも見るように、ニヤリと笑って見せた。

「あのとき、エントランスで私とぶつかったときは、すでにこの見合い話をご存じだったということですよね? なのに、私のデザインを見てあんな言い方するなんて」

「生憎、嘘がつけない性格なんでね」

 肩を揺らして楽しそうに笑っているが、私はひとつも楽しくない。悔しくて思わず唇を噛んだ。
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