クールなCEOと社内政略結婚!?
 このとき出会ってから初めて、ふたりの間に柔らかい雰囲気が流れたような気がした。 その雰囲気を壊したのは、俊介だった。

「何か、飲み物をご準備いたしましょうか?」

 さすがは秘書だけあって、そこのところは良く気がつくようだ。

「いや、いい。彼女と話があるから少し席をはずしてくれないか?」

 社長の言葉に、俊介の眉が一瞬ピクリと持ちあがる。しかし、すぐにいつもの表情に戻り「かしこまりました」と頭を下げると、出口に向かって歩き出した。

 私は、俊介をの後を追う。

「ねぇ? いつまでこっちにいるの?」

「さぁ、社長の気まぐれで決まるから、はっきりとした日程は、お前の父ちゃんに聞けよ」

「出国するまでに、絶対ごはん行こうね」

「あぁ、また連絡して」

 出口でこちらを振り返った彼が、私のまだ濡れた前髪をクシャっとかき混ぜた。

「なにかあったら俺に相談すること。わかったか?」

 チラリと室内にいる社長に顔を向け、俊介がそう言った。

 もう……心配性は今でも健在か。小さなころから自分だって私に意地悪するくせに、私になにか困ったことがあると一番に駆けつけてくれた、俊介。変わらない彼に笑顔が浮かぶ。

「もう、私も大人だから大丈夫。でも本当に困ったときは相談する」

 私の言葉に納得し、頷くと俊介は扉の向こうに消えた。
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