クールなCEOと社内政略結婚!?
 廊下に出た後、先に歩く社長の姿を見て昨日のやりとりが鮮明に頭をよぎった。それと同時に足がピタリと止まる。

 このままついて行けば……どうなるんだろう。

 そう思うと、一向に足が動いてくれない。社長との距離はどんどんあいていく。そこに悪魔のささやきが聞こえる。

〝逃げちゃえ〟

 そうだ。これは別に業務命令ではない。だから従う必要なはないはずだ。私は自分の中の悪魔の声に忠実に従うことにして、くるっと踵を返すと、社長が向かっているエレベーターホールとは真逆の非常階段へと足を向けた。

 ある程度距離を取ったところで、早足で相手から逃げる。ドンドン加速していき競歩並みの早さで非常階段の入口に向かい足を踏み入れようとしたとき、「待てっ!」という声が背後から聞こえた。間違いなく私に向けられた言葉だ。

 待てと言われても、待つわけにはいかない。私は非常階段を一気に駆け降りる。カツカツとヒールの音がこだまする。それを追って来る足音も同時に聞こえた。

 ……ああ、もう見つかるなんて。

 背後からドンドン迫ってくる足音に焦り、足がもつれそうになった。

「あっ」

 踊り場で体勢を崩し、間違いなく階段を落ちると思った私は、ギュッと目をつむってその衝撃に備えた。
< 42 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop