クールなCEOと社内政略結婚!?
「別じゃない。俺を拒否しておいてそのまま働こうだなんて、随分ずうずうしいな」
「そんな……私、この会社でデザイナーとして働きたいんです。この会社じゃないと――アナスタシアじゃないとダメなんです」
当時の母は貧しくて、とてもじゃないけれどアナスタシアの洋服を次々に買うことはできなかった。けれど持っていたアナスタシアのワンピースを大切にしていた。それは今も私のクローゼットの中にしまってある。それを身に付けたときの母は、いつもの母とは違っていた。美しく輝く女の顔をしていたのを今でもはっきりと覚えている。
だからこそ、ここじゃないとダメなのだ。それなのに解雇だなんて。
「ここで働きたければ、俺と結婚しろ。いやなら、辞めてもらう。単純な話だ。婚姻届けにサインさえすれば、俺は会社の安定を得られるし、お前は仕事を続けられる。お互い得する話なのに、どうして渋る必要がある?」
社長の顔をまっすぐと見つめる。それまでのうすら笑いをひっこめて、同じくこちらを見つめていた。その表情から彼は本気でこの話をしているということがわかる。
行くも地獄。戻るも地獄とはこのことじゃないだろうか。
どっちにしろ、私の思い描いていた人生とは大きく道を外れることになる。しかし、私の選ぶ道はこのふたつしかないように思えた。
「そんな……私、この会社でデザイナーとして働きたいんです。この会社じゃないと――アナスタシアじゃないとダメなんです」
当時の母は貧しくて、とてもじゃないけれどアナスタシアの洋服を次々に買うことはできなかった。けれど持っていたアナスタシアのワンピースを大切にしていた。それは今も私のクローゼットの中にしまってある。それを身に付けたときの母は、いつもの母とは違っていた。美しく輝く女の顔をしていたのを今でもはっきりと覚えている。
だからこそ、ここじゃないとダメなのだ。それなのに解雇だなんて。
「ここで働きたければ、俺と結婚しろ。いやなら、辞めてもらう。単純な話だ。婚姻届けにサインさえすれば、俺は会社の安定を得られるし、お前は仕事を続けられる。お互い得する話なのに、どうして渋る必要がある?」
社長の顔をまっすぐと見つめる。それまでのうすら笑いをひっこめて、同じくこちらを見つめていた。その表情から彼は本気でこの話をしているということがわかる。
行くも地獄。戻るも地獄とはこのことじゃないだろうか。
どっちにしろ、私の思い描いていた人生とは大きく道を外れることになる。しかし、私の選ぶ道はこのふたつしかないように思えた。