クールなCEOと社内政略結婚!?

②ただいま

 最悪の形で始まった一週間だったけれど、それからは何事もなく過ぎていった。まるであの出来事が夢の中の話みたいに。

 しかし木曜日の夜、奴からスマホにメールが届いた。メールアドレスをどうやって入手したのか……ということはひとまずおいておくとして、内容がいただけない。

【いつ引っ越して来るんだ?】

 いつって言われたって、社長の住んでいる場所も知らないのに、どうやって引っ越せばいいのだろうか。

 そもそも一緒に住まないとダメなの? 

 形だけの夫婦――そのつもりだった私は、事前に何も決めずにサインをしてしまったことを、ここで改めて後悔する。いや、ずっと後悔はし続けているんだけれども。

 どう答えるべきなのか悩んでいるうちに、返信し忘れていた。それがまさかこんな事態になるとは……。

「あの、困ります。いきなり来られても」

「そうおっしゃられても、私どもは依頼をうけてまいっておりますので」

 土曜日の十時。私はマンションの入口で押し問答を繰り返していた。相手は引っ越し業者の女性の人。至極困り顔をしているが、私だっていきなり引っ越しとか言われても困る。

「ほら、この書類を確認してください」

 差し出された紙は契約書だ。そこには今の日時とうちの住所がかかれている。そして見慣れない電話番号。

 私はすぐにスマホでその番号に電話をかけた。呼び出し音が何度か鳴る。その回数が増えるたびに私のイライラが募っていく。
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