クールなCEOと社内政略結婚!?
「家に帰ったら〝ただいま〟だろう? 幼稚園からやり直すか?」

 バカにしたように私の顔を覗きこんでくる。端整な顔がこんなに憎らしいと思ったのは初めてかもしれない。イケメンが正義だなんて誰が言った。

「ほら、言ってみろ」

「……ただいま」

 不服混じりの〝ただいま〟だったが、社長は満足したみたいだ。私の肩に乗せていた手を退けると、どうぞと言って私を中へと促した。

 はぁ……この結婚がなくなるなら、幼稚園からやり直してもいい。そうすればどこから私の人生が間違っていたのかわかるかもしれない。

 そんなできもしないことを思いながら、奥の扉を目指した。

「うわぁ……」

 ついさっきまで不機嫌かつ、戦闘態勢だったはずの私は部屋に入るなり、その広さに驚いた。私の住んでいたワンルームマンションはリビングにすっぽり入ってしまうだろう。

「荷物。そっちの部屋に運んでもらったから」

 リビングから続く扉、ふたつのうちひとつを社長が指さした。

 空いていた扉から中を覗くと、午前中に梱包されたばかりの荷物がすでにほどかれていた。書類に書いてあったお任せプランとは、全部やってくれるということみたいだ。中を覗いている私の背後に社長が立ち、同じように部屋の中を眺める。
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